大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和55年(行ケ)322号 判決

原告 ペンウオルト・コーポレーシヨン

被告 特許庁長官

主文

特許庁が昭和五五年六月一〇日、同庁昭和四四年審判第三四二二号事件についてした審決を取消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  原告

主文同旨の判決

二  被告

「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」

との判決

第二当事者の主張

一  請求の原因

1  特許庁における手続の経緯

原告の前身であるウオーレス・アンド・タイアーナン・インコーポレーテツドは、昭和三九年一二月一二日、一九六三年(昭和三八年)一二月一三日の米国への特許出願に基づく優先権を主張して、名称を「カプセル化法」とする発明について特許出願(昭和三九年特許願第六九六二七号)したが、昭和四三年一二月五日付で拒絶査定された。

そこで、原告は、昭和四四年五月一六日、審判を請求し、昭和四四年審判第三四二二号事件として審理され、その間昭和四六年五月二〇日に出願公告(特公昭四六―一八一二七号)されたが、昭和五五年六月一〇日、「本件審判の請求は、成り立たない。」旨の審決がなされ、その謄本は、昭和五五年六月二八日原告代理人に送達された。

なお、原告のための出訴期間として三か月が附加された。

当初の特許出願人ウオーレス・アンド・タイアーナン・インコーポレーテツドは、昭和五〇年一一月一三日付の合併による名義変更届によりペンウオルト・コーポレーシヨンと名義が変更された。

2  審決の理由の要旨

本件出願に対し、当審では昭和五〇年一一月二二日付で明細書の記載が不備である旨の拒絶理由を通知した。

これに対し、請求人(原告)は、昭和五一年四月一五日に明細書の記載を補正する手続補正書を提出しているが、該手続補正は、それに対する補正の却下の決定の理由に示したように、補正をすることができる期間が経過した後に手続をしたものであるから、採用することができない。

そこで、該手続補正がされる以前の明細書についてその記載を検討するに、上記拒絶理由通知に示したとおりの不備がある。即ち、本願明細書の特許請求の範囲には、本発明方法で用いる「互いに補足しあう、直接作用する、有機ポリ縮合物を生成する中間体の一対」について、その「一者または両者の少くとも一部分は、中間体のその他のものに対してポリ縮合物を造る反応において補足する三箇もしくはそれより多い官能性基を有する多官能性基反応体を部分的に含むかもしくは完全にそれからなるようにしてあり、その結果交サ結合が行われる」と明記されている。

ところが、発明の詳細な説明には、上記多官能性基反応体をまつたく含まず、したがつて交サ結合が行われない場合の例が実施例1・3及び11として、本発明方法に包含されることを示す「実施例」という表題を付して記載されている。即ち、本願明細書の発明の詳細な説明は、特許請求の範囲に記載されている方法に包含されない方法を本願発明の方法に包含されるように記載しており、そのことによつて本願発明の構成を不明瞭にしているから、特許法第三六条第四項に規定する要件を充たしていないものと認めるほかない。

3  審決を取り消すべき事由

昭和五〇年一一月二二日付の拒絶理由通知書は昭和五〇年一二月一六日に発送されたものであり、右拒絶理由通知に対する意見書の提出期間は在外者である原告のために右発送日より三か月と定められた。したがつて、右拒絶理由に対する意見書の提出期間の末日は昭和五一年三月一六日となるべきところ、原告は、昭和五一年三月一五日に期間延長願書を提出したので、右期間は一か月延長されたため、拒絶理由に対する意見書の提出期間の末日は、昭和五一年四月一六日であつた。

ところで、原告は、審決認定のごとく昭和五一年四月一五日に同日付の手続補正書を提出したのであるから、右手続補正書は、昭和五〇年一一月二二日付拒絶理由通知書において原審が指定し、かつ適法に延長された意見書の提出期間内に提出されたことは明らかである。

したがつて、原告の右手続補正は、補正をすることができる期間が経過した後に手続をしたものであるから採用することができない、とした補正却下の決定は、誤りであるので、右の違法な補正却下の決定を前提として右手続補正後の本願明細書の記載について何ら審理することなく、右手続補正のなされる以前の本願明細書の記載に基づいて記載不備を理由として本件審判の請求を成り立たないとした審決は、違法として取り消されるべきである。

二  被告の答弁

請求原因事実は、すべて認める。

理由

請求原因事実は、すべて当事者間に争いがない。

ところで、特許法(昭和三四年法律第一二一号)第五条は、指定期間を請求又は職権で延長することができると規定するのみで、期間延長の請求があつた場合における取扱いについては、もつぱら解釈に委ねられていると解せられるところ、昭和四〇年一一月一日施行の例規「法定期間及び指定期間の取扱い」(審査便覧九一、〇七A参照)〔Ⅱ〕(3)(6)は、請求に対する応答の煩を省くため、在外者にあつては一か月以内の期間の延長を請求できる旨を定め、請求に係る延長期間が右期間内のものであれば、当然にその期間だけ指定期間の延長されたものとして取扱う趣旨であると解するを相当とする。

したがつて、本件において、在外者である原告が、昭和五一年三月一五日に期間延長願書を提出して一か月の期間延長を請求したことにより、昭和五〇年一一月二二日付拒絶理由通知書に対する意見書の提出期間は、一か月延長され、右意見書の提出期間の末日は昭和五一年四月一六日となり、これに伴い、特許出願人たる原告は、出願公告をすべき旨の決定の謄本の送達があつた後に拒絶理由通知を受けた場合として右意見書の提出期間の末日である昭和五一年四月一六日までは、拒絶の理由に示す事項について、願書に添附した明細書又は図面について補正をなすことができたものであるから(同法第六四条第一項参照)、原告が、昭和五一年四月一五日に提出したところの明細書の記載を補正するための手続補正書は、期間内に適法に提出されたものというべきである。

そうすると、右手続補正は補正をすることができる期間が経過した後に手続をしたものであるとし、補正後の明細書の記載を審理することなく、もつぱら補正前の本願明細書の記載のみに基づいて、明細書の記載が不備であると判断した審決は違法であつて取消を免れない。

よつて、審決の取消を求める原告の本訴請求は理由があるからこれを認容し、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法第七条、民事訴訟法第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 杉本良吉 楠賢二 舟橋定之)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例